犬物語｜バロン 第3話
あの日のことは、今でも静かに胸に残っています。
ぬいぐるみみたいだった子が、
いつの間にか“立派なおじさん”になり、
家の中心にいて、いつもそばにいた。
別れは突然やってくるものだと思っていたけれど、
本当は少しずつ、気づかないうちに
心が準備していたのかもしれません。
最後の日、バロンの呼吸がゆっくりと静かに止まっていくのを、
私は強く抱きしめながら見送りました。
悲しいだけじゃなかった。
確かに「ありがとう」がありました。
気づきたくなかった始まり
6歳を過ぎたある日、
食いしん坊バロンが、ご飯を食べなくなりました。
「そんなはずない！」
信じられなくて、二日様子を見てしまったほどに。
病院で言われた言葉は、あまりにも急でした。
> 「このままでは三日もたないかもしれません。」
その瞬間、世界がすっと静かになったのを覚えています。
それでも、諦めなかった
迷う余地なんてありませんでした。
「治療をしますか？見守りますか？」
――迷わず、治療を選びました。
一日おきの点滴、血液検査、ステロイド。
何件もの病院でセカンドオピニオン。
「できることは全部したい」と思っていました。
途中で、医療費を電卓ではじいた時だけは
「破産する……？（笑）」と頭を抱えたけれど。
今思えばそれすらも、バロンと生きた証です。
残された時間を、ちゃんと生きた
余命三日と言われた日から――
バロンは 二年半も生きました。
その間、普通に散歩して、
ご飯おねだりして、
ソファでおじさん座りしていました。（笑）
「生きたい」と思う力って、すごい。
最後の時間は、静かな光だった
2007年8月6日の夜。
バロンは、私の腕の中で
息がゆっくりと、静かに、止まっていきました。
泣いたけれど、苦しくはなかった。
ちゃんと触れて、ちゃんと見て、
ちゃんと「ありがとう」を伝えられた。
それは今もずっと、宝物です。
ぬいぐるみだった子が、家族になった
仔犬の頃のふわふわから、
ちょっと渋いおじさんになるまでの全部。
笑いも、困りごとも、心配も、愛も。
全部まるごと、幸せでした。
バロン、うちの子になってくれてありがとう。
大切な存在に、今、言葉を届けるとしたら。あなたは何を伝えますか？
ごきげんよう。
グレートピレニーズ バロン
1999年1月21日生 2007年8月6日没
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